コラムNo.18 「本当の意味での合併とは」

合併会社が合併したと言えるのはいつなのでしょうか?

いくつかの会社が合併するとき、制度や方法、システムが統合されたり刷新されたりします。そしておおむね合併前には説明会などが行われ、合併と同時にスタートするようになっています。

私が関係したある2つの企業では、合併を機に新しいマネジメントモデルの導入を計画し、役員を対象とした研修が実施されました。私の感覚では何か新しい手法や制度(例えばコーチングやリスクマネジメントなど)が企業に導入される場合、役員クラスではなく中間管理職クラスへの導入を先行することが多く、そして良くあることとして、その導入や浸透のスピードは遅くなる傾向にあると感じていました。今回は役員クラスから先行して研修が導入されましたので、うまくいくのではないかと期待していました。

A社は、今回導入する新しいマネジメントモデルについては先行して導入していた経緯がありました。ただし、モデルの原理原則からは少し外れた運用をしていました。そして原理原則から外れた部分が重要な点であり、導入を主管する事務局ではこの点がネックになると考えていました。事実、役員研修内では「これまで習ってきたことと違う。」という意見がたびたび出されました。このような研修の状況を見ていた専務から指摘がありました。「これまでの運用を手放し、新しく制度を入れるという気持ちで研修を受けてほしい。」その発言をしている専務の強い視線からは危機感が感じられました。実質的にモデルの運用を主導してきた者として、習慣を変えることの難しさを良く知っていたからかもしれません。

思考や行動に柔軟性があると言われていたB社での研修は、新しいマネジメントモデルの導入にもかかわらずプログラムどおりに進捗しました。B社がこれまで運用してきたPDCAのモデルは、上位者の戦略や戦術が下位者の戦略・戦術にもなるというモデルでした。部長が管轄するエリアの環境と課長が管轄するエリアの環境が異なっても、戦略や戦術は同じにするというものです。新たなマネジメントモデルは内部環境や外部環境が違う組織であれば、戦略・戦術は違って当たり前というものです。これまで戦略・戦術の一貫性を重視してきたB社の常務は、新たなモデルのこの原理原則だけは納得できずに研修は終わりました。

両社はどのようにして新しいマネジメントモデルの導入に合意したのでしょう。
両社は役員研修後に、キーマンが集まって話し合いが行われました。これまでの運用を手放せそうに無いA社と、これまでの一貫性を手放せそうに無いB社の、研修で顕在化した課題をクリアするための話し合いです。このような場合、コンテンツレベルでは双方の思いが強すぎてしまうため、合意には至りません。一歩離れて、一段上のそれぞれの意図を包含するような高い視点から眺める必要があります。そしてさらに、目的レベルで合意する必要があるのです。

約1時間の話し合いを経て、A社は愚直にひとつのことをやり続けることが強みであり、今回の原理原則から外れた運用もそれが原因になっている。肯定的に意図を汲み取れば、新たなマネジメントモデルも愚直にやり続けることができるという結論に達しました。そしてB社は、常務が起案した戦略・戦術は部長や課長の戦略・戦術のどこかには現れるはずだという柔軟な解釈をしたことによって、新しいマネジメントモデルの意図を受け取ることができました。両社ともにこれまでの運用・習慣をいったん手放しました。そしてこのマネジメントモデルを導入する目的は、合併会社の目的・目標を達成し続ける組織にするためであるということに気づいたのです。

この後、新しいマネジメントモデルの導入は加速度的に進みました。このモデルには独自の名称が付けられ、それぞれの会社では管理職者レベルでの研修が行われ、このモデルで各部署での会議を行っていくことが経営会議で決定されました。

合併会社にとって、たった一つのマネジメントモデルの導入が本当の意味での合併とは言えないかもしれません。しかし、新しい会社の社風や文化になるようなマネジメントモデルを、両社のトップが目的レベルで合意して導入する場合、本当の意味での合併の第一歩を踏み出したと言えるのかもしれません。皆さんはどのように考えますか?

<文責:中野喬<


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