「バーチャル(virtual)」とは「事実上の、実質上の」という意味ですが、日本語訳として「仮想」と訳されることが慣例となっています。そのため少々混乱が生じているようです。バーチャルとは仮想のものではなく、表面上は違うが実質そのものである様子を言います。ですから「バーチャル・マネー(仮想通貨?)=電子マネー」は貨幣そのものではなく、オンラインサービスで実質上の経済活動を行うための貨幣価値のことを言います。
ではバーチャル・チームとは何のことを言うのでしょうか。バーチャル・チームは「仮想チーム」ではなく、「実質上のチーム」です。バーチャル・チームはすべてのチームと同じように、目的を共有し、相互依存的に課題に取り組む集団です。伝統的なチームと違うのは、バーチャル・チームはインターネットを活用することで、時間、空間、文化、組織の境界を越えて仕事を行うことが可能であるということです。バーチャル・チームは、チームのメンバーの内と外を分ける境界線がゆるく、メンバーが地理的に分離しているチームであると定義しても良いでしょう。そのため極端な場合、お互いに会ったことがないというメンバーたちが電子メールや電子会議などのITを駆使して仕事をすることになります。
ここでバーチャル・チームに対して、リアル・チームを区別しておきましょう。Real は「実在する、現実の、真の、本物の、本当の」という意味ですから、リアル・チームは「現実のチーム」であり、「本当のチーム」ということになります。リチャード・ハックマンは「組織の中でのリアル・チームには4つの特徴がある。すなわち、チームのタスク、明確な境界、彼らの仕事のプロセスを管理する具体的ではっきりした権限、そして一定期間におけるメンバーの安定性である」(引用文献:J.Richard Hackman “LEADEING TEAMS SETTING THE STAGE FOR GREAT PERFORMANCES” 2002 )と述べています。そしてチームリーダーの最も重要な仕事はこれらの4つの特徴を満たすことだとも強調しています。
リアル・チームの場合はフェース・トゥ・フェースでミーティングを行い、基本的に同じ環境で共同作業を行います。それに対して、バーチャル・チームは各所に散らばる人材をITで結び付けます。共有オンライン・ワーク・スペース、オンデマンド電話会議などのコラボレーション技術の進歩によって、特に技術者たちによるプロジェクトの遂行の場合では新しいチームワークの可能性が生まれてきているのです。ITは急速に進歩していますから、今後バーチャル・チームに関しても想像を超えるような機能と状態が実現するかもしれません。
今後の展開が期待できるとはいえ、一般的にはバーチャル・チームを「チーム」という名称にふさわしい効果的な組織にするのは簡単ではありません。バーチャル・チームのメンバーたちに対して、ハックマンが挙げたリアル・チームの4つの特徴を満たすための働きかけをチームリーダーやチームコーチはどこまでできるでしょうか。リアル・チームに比べて浅くなることは避けられません。
バーチャル・チームが本当に良い仕事をするためにはメンバーは顔合わせをして相互依存的な関係を作る能力を向上させ、そして同じ目的意識を築くための時間を共に過ごすことが必要です。Eメールでは握手もできませんし、笑顔を見せることもできません。個人的な関係と顔を突き合わせたコミュニケーションが信頼を築かせるのです。そして信頼という接着剤なしに、チームは機能しないのです。
そこでバーチャル・チームのチームコーチは、メンバーになることに同意した全員がキックオフミーティングに顔を出して、お互いを知り、チームの目的とルールを明確に設定した上でスタートするという機会を作るでしょう。その後は仕事の段階ごとに集まり、報告を行い、フィードバックを受け、プロセスを振り返り、必要ならばルールの再設定を行う。そうして、タスクの完了時には全員が顔合わせする機会を設けて、それぞれを承認し合うイベントを開催することでしょう。
チームには規律が必要です。日ごろのコミュニケーションはメーリングリストやインターネット上の会議が中心になりますので、特別なルールが必要でしょう。本人を前にしては言わないような表現をインターネット上ではしてしまいがちです。インターネット上のコミュニケーションは生の会話以上に誤解を生みやすいものです。だから個人的な否定的感情、個人攻撃、破壊的批判、悪口、愚痴を書き込まないことや個人宛に送ったメールを本人の了解を得ずにメーリングリストに貼りつけないことなどのルールを設定しておかないとインターネットの場が汚れていきます。情報を受け取り解釈するのは感情を持った人間ですから、誤解と疑念が大きくなってしまうのです。そうなるとメンバーの参加度は一気に低くなります。
バーチャル・チームが仕事をしているときにはチームコーチも電子会議やインターネットでの議論に参加していることが重要です。またEメールでのコーチングが有効になるような環境づくりも大切です。
文責: 田近秀敏