コラムNo.4 「究極のチームづくりとチームコーチの出処進退」

究極のチームがあるとしたらどのような状態のチームでしょうか。
それはチームコーチの存在を必要としなくなったチーム。つまり、「セルフコーチングが可能なチーム」ではないでしょうか。

誰もが上質なチームコーチング能力を身につけられるわけではありません。だから組織から必要とされ、グループの人々が真の高業績チームに変容していくこと を支援するために、チームコーチとしての役割を担うこと自体、素晴らしいことです。優れたチームコーチになるためには様々な能力やスキルを開発する必要が ありますが、そのひとつはチームコーチ自身がチームから退くタイミングを知ることです。なぜならば、本当に有能なチームコーチが支援したチームは、その チームコーチから卒業していく可能性があるからです。

コーチがチームから退くことの前提は、チーム自体がチームコーチングのプロセスを取 り入れて、メンバーの力によってそのプロセスが機能しているということです。しかしチームのメンバーがチームコーチをモデルにしたとしても、セルフコーチ ング能力を身につけるのは決して簡単なことではありません。チームコーチングはマニュアルで行える会議運営とは別次元のダイナミックなプロセスが要求され るからです。ですからチームコーチは、チームが新しい段階へどのように移行していくのかをチーム形成の初期段階からデザインしておく必要があります。その ためには最終的な目的地を知らなければなりません。

それでは、最終的な目的地である「セルフコーチングが可能なチーム」とは具体的にはど のような基準に達しているチームのことを言うのでしょうか。英国人で著名なコーチのひとりであるディヴィド・クラッターバックの意見を参考にして、「セル フコーチング可能なチーム」の特徴として3つの要素にまとめてみましょう。

  1. メンバー自身がチームを動かすための有効な質問を持っていて、コーチングのプロセスを自分たちでリードできること
  2. チーム全体とメンバーへの必要なフィードバックをお互いに、そして外部から与えてもらえる関係があるということ
  3. チームとして成果を達成するためにさらに学習し、改善していくことへのモチベーションを有していること

すなわち、通常はチームコーチがリードする特別なプロセスを引き継いで自主運営する能力とリソースを開発していることが条件になります。

「セルフコーチングが可能なチーム」のための環境づくりとして大切なことは、メンバーが必要な能力とスキルを開発することです。例をあげれば、メンバー誰 もがコーチとなり、またコーチイー(コーチングを受ける人)になる能力。達成すべき課題や人間関係、また具体的な行動などにバランス良く焦点を当てる能 力。お互いの学びとなる対話の機会を生み出す能力。チームが学習を進めるプロセスを管理する能力。グループからチームに変容していくプロセスを理解し、メ ンバー自身がそのプロセスをリードする能力。そしてチーム自体の一貫性を保持する能力などです。これだけでもかなり有能なリーダーを育成することになりま す。

チームコーチの仕事のひとつは、チームが仕事や課題を達成していくプロセスを通して、このように優れたリーダーを生み出していくこと なのです。チームコーチングが最高度に機能して、チームが勝利を手にし、メンバーたちが自分の所属するチームをセルフコーチングしていくような人材になっ たときには、彼らはチームコーチから卒業していくことでしょう。
その意味で、チームコーチは自らの出処進退をデザインすることが大事なのです。

<文責 田近秀敏<


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