今年の冬はよく雪が降ります。私の住む京都比叡山の麓では車では出かけられないくらい積もったりしています。スポーツの世界では駅伝やサッカー、ラグビー、アメリカンフットボール等冬でも熱戦が繰り広げられています。 私が大好きな野球はオフシーズンですが冬の過ごし方が次のシーズンをどのように過ごすのかが左右されます。
前回の私が担当したコラムでは夏の甲子園を観戦しながら3年間のチームづくりについて書いたのですが、今回は冬の時期がどのようにチームづくりに影響するのかを書いてみたいと思います。私の高校時代の冬の思い出は苦しい事ばかりでした。ボールを触ることはほとんど無く、走ったり筋トレをしたりする期間が3ヶ月ほど続きます。アメリカでは考えられない事ですが日本の高校野球ではほとんどが全員同じメニューでトレーニングをします。
身体の大きさも違えば筋力もそれぞれが違うわけですから本来は一人一人違うメニューを組むことが能力を向上させるためには有効なはずです。しかし、良い点もあります。全員で同じメニューをこなし同じ苦しみを分かち合ったという仲間意識が強くなるのです。さらに、冬のトレーニングの時期はリセットの時期でもあります。春のスタートを上手くきれればそれまで補欠だった選手もレギュラーになれるチャンスが待っています。そのため、モチベーションの高い選手は全員での練習以外に独自の練習に取り組みます。
実は、チーム力をあげるポイントはここにあります。冬の時期は個人の能力向上に集中でき、個人の成長意欲を掻き立てるチャンスです。個人の能力やモチベーションを高め、その先にチームとしての目標があることを理解できるようにセットできるのかがポイントになってくると思います。力を蓄え、大きな成果を生み出す冬の時期の流れを見てみましょう。
冬の期間は、実践から遠ざかるために指導者も選手自身もだれが優れだれが劣っているのかを判断することができません。一年間で唯一勝ち負けや、打率・打点・本塁打等の数値、上手い・下手の判断から開放される時期なのです。雑音から解き放たれ自分の目標だけに集中して、人より多くのトレーニングや素振りに取り組むのです。ベースとしてみんなで同じメニューをこなすこと、そしてライバル達も自分と同じように陰で努力をしていることを知ることにより仲間意識と他の選手への尊敬も芽生えてくるわけです。そして、本当にチームが出来上がるのは実践が始まってからになるのですが、当然再び評価をされることになります。レギュラーと補欠に別れ、ベンチにすら入れない選手も出てくるわけですが、指導者がしっかりとプロセスを認めてあげれば結果に対して選手達は不満を持つことはありません。
身体は正直ですので冬を越した選手達を承認するには最適の時期です。間違いなく、脚や腕は太くなっていますし走力や遠投なども確実に伸びています。指導者が打つことや投げることだけでなく、個人としてどれだけ成長したかを認めてあげれば選手達は納得するのです。自分達が一緒にトレーニングし、さらに努力を積み重ねたチームメイトを認めるときがくるのです。
春になれば指導者は一人一人の努力を承認し、甲子園を目指すことを通じて手にすることができるものを語り続けることでチームがつくられていくのですがそれにはどのように冬を越えたのかが大きく関わってくるのです。一人一人が自立し、精一杯の努力を続けた選手が溢れ返っているチームが夏に成果を手にするのです。
今回のポイント
1.全員がハードルの高い同じメニューをこなす
2.判断されること無く、自分の身体に向き合い自らプラスアルファのトレーニングを行う
3.指導者がプロセスを承認する
4.選手同士がお互いを認め合う
5.全員同じメニューをベースとして独自のトレーニングに励んだ選手が数多くいる
すべての高校球児に同じ時間が与えられ、公平に春はやってきます。しかし、どのような春を迎えるかは一人一人違うのです。人生の中では季節と関係なく冬の時代を迎えることがあります。必ずやってくる春をどのように迎えるのか。冬の時代のすごし方にかかっているのかもしれません。
文責 鴨井啓